【 Intervallo  IX → X 】


 第八幕につきまして、ワタシが知っているのはここまでです。
 こうして己の殻を破ろうと努力してきた彼女は、今度こそ本当の意味で籠の外へと羽ばたいていったのですね。
 かつてお姫様を畏怖し、疎んだ外界の者達も、荒んだ天候を目の当たりにしてどれだけ彼女が大いなる存在か嫌というほどに理解したはず。これから外界はお姫様にとっても他の者達にとっても一層住みやすい安住の地となること請け合いでしょう。
 彼女を中心に皆で手を取り合えば、世界は安泰を約束されたも同然。めでたしめでたしです。


 ……え? どこがめでたしなんだ、と?
 枷まで作り上げてお姫様の心を破壊した、莫迦莫迦しい嫉妬に狂った男の拘束から逃げおおせることができたのですから、これ以上の喜劇的結末(メデタシ)は無いとは思われませんか?
 彼の心の中身は、自分を救い拠り所となったものへの異常なまでの執着、自分に似たものを手放すまいとする謂わば鏡映しの自己愛にすぎない。愛情と狂気ほど紙一重なもの、境界が曖昧なものはない。純愛も度をすぎてしまうと狂愛に成り果てるという最たる例でございましょう。
 彼女の心もまた、幼な過ぎた。最上の理解者であるはずの彼の想いに気付かなかった、否、気付こうとしなかった(・・・・・・・・・・)。時として無知は罪となりますが、無知であろうとする罪は前者のそれよりも余程重い。
 この一件がなくとも、彼も彼女がお互いに共依存のままを我らが世界の楽園として定めるか、あるいは互いの違いを尊重し本音で向き合わない限りは、迎える結末も大して変わりはしないのでしょうね。


 さて、第八幕までご覧いただき、誠にありがとうございました。
 名残惜しくはありますが閉幕のお時間が迫って参りました。続いて最終幕へ移ることと致しましょう。





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