【 Desiderio 】
それでは改めまして。
今宵は当劇場の演目を最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
人間のココロが生み出す色とりどりの欲で織りなされた、喜劇的結末を迎えた八つの小話。いかがでしたでしょうか。
小話の選び手として細部を語りたい思いは多々あれど、私の陳腐な言葉などすべて蛇足にしかなり得ませんから、後は雄弁なる沈黙に任せるといたします。
本日の演目はもう二度と、皆さまの前で上演されることはないでしょう。縁あっていらっしゃったお客様と、今夜限りの小話達の出会い――お気に召すもの、召さぬもの、感じ方は人それぞれでありましょうが、憂き現世を忘れて見入るものがあったのなら、何かひとつでもお心に留まるものがあったのなら、支配人としてこの上ない僥倖でございます。
ああ、そちらの御方。ありがとうございます、お手元にお代をご用意いただいて。
しかしどうぞ財布はお仕舞いください。冒頭に申し上げましたとおり、当劇場では代金は一銭たりとも頂戴致しません。後ほど支配人補佐が皆さまのところへ、公演料として別のものを頂きに上がりますので、今しばらくお席にてお待ちください。
おや、くすくす笑いが各所であがる……そういえばあの子、私のご挨拶の後に、皆さまに何かを吹き込んでいましたね。
「給金が少ない」だの「ブラック劇場だ」だの「働き方改革なんざ夢物語だ」だの、減らず口でとにかくやかましいのですが、私は彼を気に入っているのですよ。あの子は口先はどうあれ、やるべきことを私の望むままに完璧にやり遂げる。誰でもできる簡単なことのようでいて、これがなかなか難しいのは皆さまもご存じではないでしょうか。
彼は今日もこれから、寸分の違いもなく私が望むとおりの仕事をするでしょう。だからこそ絶対的な理解者として、私はあの子に揺るがぬ信頼を置けるというものです。
それでは後は支配人補佐に託しまして、今宵皆さまとこうしてご縁をいただけた感謝を胸に、私の閉幕のご挨拶を結ぶと致しましょう――
どうぞ皆さま、末永くお達者で!
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Dopo il finale (終幕後へ進みます)
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Ingresso (入口へ戻ります)
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