【 Bellezze tenace 】


「キレイね、キレイ。こんなに美しい色は初めて見るわ。本当にキレイ!」


 そう褒められた、褒めちぎられたあの日。ぼくはとてもとても嬉しかった。

 周りの皆とも違う、顔も知らないパパともママとも決定的に違うであろう、ぼくの色。どうしてひとりだけ違ってしまったのかは分からない。でもはっきりと言えることがふたつ。ぼくは明らかに浮いていて、そして居場所がなかった。
 仲間はずれにされるのがいやで、影口を叩かれるのがいやで、「違う」ことがいやで。できるだけ目立たないところに潜んで、他とは関わらず慎ましやかに暮らしていたぼくにとって、突如降りかかってきたキレイという言葉は思いがけないものだった。生涯無縁な言葉だと思い込んでいたから余計に、だろうか、何だか心が温かくなったような気がした。


「……嘘じゃない? ぼく、おかしくないの?」
「あら、どこがおかしいの? 確かに滅多に見ない色だとは思うけど、他とは比べ物にならないほどキレイなんだもの。もっと自信を持ちなさい」


 キレイ、きれい、綺麗。
 聞き慣れないその単語を頭の中で何度か繰り返すたびに、じわじわと温かさが増して、鳥肌が立った。なんてふんわりと軽やかで甘い、素敵な響きなんだろうか。

 ぼくを引き取りたいと目を輝かせたそのひとに、ぼくは喜んで従った。もともと身寄りはないし、それまで住んでいたところに未練があるわけでもなかったし、何より初めてぼくの存在を好意的に認めてくれたひとだから、むしろ自分から飛び込むような形でついていった。
 辿り着いた先は、今までに見たことのない真っ白な大きい建物。その一角を占める真っ白な広い部屋が宛がわれた。扉の正面にあたる壁には巨大なガラスが一枚はめ込まれていて、廊下が見えるようになっていた。
 あのひとは、私の許可なしに部屋の外に出ちゃダメよ、と言ってぼくの頭をゆっくり撫でた。不思議だとは思ったけど、暮らしていくのに必要なものは揃っているし不自由は何も無さそうだったから、それ以上気に留めることはなかった。
 部屋にはいくらかの先客がいた。「普通」の色を持った子たちだった。あのひとは、アナタが寂しくないように先に連れて来たお友達よ、仲良くしましょうね、と言ってぼくの背をそっと押した。長年に渡って染みついてしまった癖で、最初こそ皆に対して恐怖を感じたけど、もう逃げて隠れようとは思わなかった。もうびくびくして縮こまる必要はなかった。

 だって今は、例え皆と違っていたってぼくはキレイなんだよって、胸を張れるんだから。


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 そうして始まった新しい暮らしに、ぼくはすぐに慣れていった。
 共同生活をする子たちは、外の子たちのようなところがなくて――何がどう「ない」のか、言葉で表すのは難しいけど――、意地悪することもなかったから、仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。
 不思議だと思っていた外出禁止令について、ぼくや皆をここに閉じ込めておくためのものなのだ、と気づいたのは少し経った後だった。巨大なガラスの窓は、この建物にやってくる人々にぼくたちの姿を見せるためのものなのだということも。
 それは悪く言ってしまえば「檻の中に入れて見せ物にしている」ということ。でもぼくは、いやだとはちっとも感じなかった。あのひとは変わらず毎日ぼくを珍しくてキレイだと愛でてくれるし、途絶えることのない来訪者たちの誰もがぼくを珍しくてキレイだと言ってうっとりと目を細めてくれる。
 昔のように広く果てのない世界で怯えて震える生活より、今のように狭く閉ざされた世界で引け目を感じない生活の方が、楽しくて心地良くて、よっぽど生きやすい。

 もしも檻の外にもっと大きなしあわせがあるとしても、ぼくは檻の中の小さなしあわせを壊してまでそれを手に入れたいとは、思わない。


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 たくさんの月日が経っても、穏やかな時間は温かなまま、緩やかに過ぎていった。
 シミひとつ、ホコリひとつない真っ白な籠に自由を奪われた、不自由のない暮らし。ただそんな中でとある疑問がひとつ芽生えていた。そこでぼくは、皆のうちでも一番仲の良い子に問うてみることにした。知識が多くて頼れるからというのもあるけど、ぼくが最も早く打ちとけた子でもあったからだ。


「ねえ、訊きたいことがあるんだ」
「何だい?」
「ぼくたちには、勝手にこの部屋の外に出ちゃいけないって決まりがあるよね」
「そうだね」
「じゃあ、お許しがあってこの部屋の外に出ていった子たちは、どこに行っちゃったんだろう?」


 それが、疑問だった。
 外出禁止令を解除してもらったいくらかの子たちは決まって、この部屋には帰って来ないのだ。代わりに次の日になると新しい子が入ってくる。やっぱり何かが「ない」子ばかりが。
 新参者がいやってわけじゃないよ、来てくれることはとても喜ばしいと思うけど、と慌ててつけ加えたぼくに、相手は微笑した。透けたヴェールで包み込むような柔らかいこの笑みが、ぼくは好きだった。


「君は、僕らが何故ここに入れられていると思うかい?」
「寂しさを感じさせないためだと、あのひとは言ってたよ」
「それはあると思うよ、誰だって独りぼっちは味わいたくないものだしね。しかしそれはあの方の言葉だ。君の言葉ではどうだい?」
「……“見せ物”のため。ぼくたちは基本的にここから出られない。そしてここに来る人たちはガラスの向こうの廊下から、ぼくたちを鑑賞している。だからこの部屋の皆は、生きた“展示品”となるためにここに入れられているのかな、って」
「成程、成程。当たらずとも遠からず、ってところかな」
「当たってない、でも遠くない?」
「“見せ物”、それは正解と言えば正解だろう。だがすべてを当てているわけではないね」


 上辺の愛想をすべて取り払ったような落ち着きのあるこの声音も、ぼくは好きだった。が、今日はいつもの声音じゃないような感じが引っかかって、思わずそのことを口に出していた。


「あの、もしかして、風邪ひいてる?」
「どうしてそう思うんだい?」
「何だか声がいつもより低くて調子が悪そうな気がしたから。ごめん、無理させちゃって」
「……そうだね、そうかもしれない。こちらこそ心配をかけて悪いね、少し休ませてもらうよ」
「うん。早く治してね、そしたらまたいっぱいおしゃべりしよう」


 今すぐに疑問の答えを知らなくちゃいけないってわけでもないし、と思い、くるりと半回転した時。


「……本当に。許されて、どこに行くのだろうね」


 気のせいだったのか。
 さっきよりもずっとずっと低く掠れた声が、ゆるりとぼくの背中をなぞったのは。


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 それから数日後、あの子にあのひとからのお許しが出た。
 恒例に逆らわず、当然のようにあの子は出ていって。
 恒例に逆らわず、当然のように新しい子が入ってきて。
 恒例に逆らわず、当然のようにあの子は帰って来なかった。


+ + + + + + + + + +


 その後もまたいくらかの子が入れかわって、最初から馴染み親しんだ子たちはずいぶんと減ってしまった。
 さすがのぼくも怖くなった。考えたくはないけど、もしかして、という思いがよぎるのを止めることはできなくて。見て見ぬふりをしたくても、一度抱いてしまったら、あとは膨らむだけの恐れ。
 いつものように部屋の様子を見に来たあのひとは、皆とも話すことなく部屋の隅でうずくまるぼくを見つけて、大ぶりな目を丸くした。


「あらあら、思ったよりも早かったわね……しかもこんなに急激に。一体どうしちゃったのかしら?」
「早かった? 急激?」

 何を言われているのかが分からなくて、オウム返しに訊くと、あのひとはわずかに顔を歪めた。その一言では表せない、見たこともない複雑な表情が、ぼくの胸にざっくりと突き刺さった。
 けどそれも一瞬で影をひそめ、あのひとのくちびるはいつもの弧線をえがいた。


「でも大丈夫。大丈夫よ。さ、ついてらっしゃい」
「ついていく? ……ぼくは、ここを出るの?」
「ああ、命令のことを気にしてるの? 本当に律義で良い子。安心しなさい、私が一緒なんだから命令を破るも何もないわ」


 何が大丈夫なのか分からなくとも、先に歩み出してしまったあのひとを追いかけるより、ぼくが取る行動は他になく。ここで暮らすようになってから初めて、ぼくは真っ白な部屋の外に出た。
 後に続きながらも物珍しさを隠しきれなくてぐるりと見渡すと、廊下も壁も窓も明かりも、点々と並ぶ扉も取っ手も、絵や壺や花といったものも、すべては白、白、白。思い起こせば、この建物は外から見ても真っ白だった。ぼくは部屋が真っ白であることしか知らなかったけど、ここにいる限り世界はどこもかしこも真っ白なんだろうな、と、ふと思った。

 真っ白なエレベーターで上にのぼり、真っ白な長い廊下を進み、つき当たった真っ白なドアをくぐったところで、ぼくは耐えきれなくなって口を開いた。


「ねえ、これからぼくはどうなるの? 今までお許しをあげた子たちはどこに行っちゃったの? なんで新しい子に入れかわるの? どうしてお許しをもらった皆は、あの部屋に帰って来ないの?」


 一度口を開いたら、止めようと思っても後から後から言葉が喉からくずれ落ちてきた。知らないうちに、身体ががたがた震えていた。
 畳みかけられた疑問符にも、あのひとの柳眉はぴくりとも動かなかった。ぼくの様子とは真反対で、いっそう震えが増した。


「あらまあ、やたらと切羽詰まった質問の仕方をするのね。それじゃあまるで私を責めているみたい」
「ごめんなさい、そんなつもりは……。でも皆が次々いなくなっちゃって不安で、もしかしたらお許しの後に何か起こってるのかな、って……」
「ふふ、やあね、どんなことを想像していたのかしら。今までの子たちは生まれ故郷にかえしただけよ」
「あ……そうなんだ、良かった」


 ずっと抱えていた疑問の答えは、拍子抜けするほどあっさりと差し出された。おどろきが収まるとふっと肩の力が抜けてため息がこぼれた。
 そっか、皆は、あの子は、もともと住んでいた場所に戻ったんだ。せっかく仲良くなったから離れるのはいやと言えばいやだけど、それなら――


「だって一度褪せてしまったモノは、もう二度とアナタを飾り立てられないもの」
「……え、」


 納得して安心しきったぼくの耳は、さらりと流れた声を捉えきれなかった。音を捉えきれなかったんじゃなくて、意味を捉えきることができなかった。今、このひとは何と言ったのだろう。褪せた? ぼくを飾り立てる?


「生き物として老いて朽ちていくのは仕方のないことだとは分かってるわ。けれどそれでも、アナタのキレイさを引き立たせるために他の子達にも最低限のキレイさを保ってもらわなくちゃ困るの。枯れ始めた欠陥品と一緒にしてアナタの比類なきキレイさをお披露目するなんて儘ならないし、あってはいけないことでしょ? だから役割を果たせない価値のなくなったモノはかえして、その穴を埋める新たな子を補充しているだけよ」


 あのひとはあくまでも優しく目尻を下げたままで、屈託なくとうとうと語っていた。
 その言葉とあの子の言葉が、不意に耳の奥で重なる。


『君は、僕らが何故ここに入れられていると思うかい?』
『アナタのキレイさを引き立たせるために他の子達にも最低限のキレイさを保ってもらわなきゃ困るの』
『“見せ物”、それは正解と言えば正解だろう。だがすべてを当てているわけではないね』
『枯れ始めた欠陥品と一緒にしてアナタの比類なきキレイさをお披露目するなんて儘ならないし、あってはいけないことでしょ?』


 ぼくだけが知らなかったんだ。あの子は、あの子だけじゃない、皆は知っていたんだ。「ない」のはそのせいだったんだ。
 色々なことが一気に押しよせて放心したぼくを掴んであのひとの前に引き戻したのは、さっきと同じ、さらさらと流れる声だった。


「そしてアナタも生き物として老いて朽ちていく。それは仕方のないことだとは分かってるわ。本当よ、分かってるのよ」
「老いるって……」
「気付いてないの? アナタが誇るべきキレイなキレイな色が、見るも無惨にくすんでしまっていることに。予想していたよりも早くこうなってしまって私も吃驚したけれど」


 指をさされて、自分自身に目をやれば、ぼくの色はぼくの色でないものに変わってしまっていた。あのひとが今日部屋に入ってきて目を丸くしたわけがようやく分かった。こんなの、ぼくではないみたいだ。どうしよう、これではもうキレイだと言ってもらえない。誰よりも近い存在なはずの自分のことなのにどうして気づかなかったんだろう。
 そこまで考えて、ぼくははたりと思いとどまった。ぼくが老いてしまったというのなら、ぼくに待ち受けているのは。


「じゃあぼくにもとうとう、お許しが出されるの? 褪せちゃったから、もう価値がなくなっちゃったから……」
「そうね、キレイでなくなってしまったし、故郷に帰してしまおうかしら。でもアナタは特別なモノだから希望を聞いてあげても良いわよ」


 アナタは故郷に行きたい? それとも此処に、あの部屋に留まっていたい?
 問われて、昔の自分の光景が浮かぶ。明らかに浮いていて居場所がなくて仲間はずれになって影口を叩かれていたぼく。逃げて隠れて縮こまっていたぼく。


「ぼくは、ここに、残りたい」


 あらためて訊かれなくても答えなど決まっていた。生まれ育ったところに帰った今のぼくがどうなるかなんて分かり切っている。帰りたくない、戻りたくない、ここにいたい。
 断言すると同時にひどい恐ろしさと焦りがつのった。ぼくはここにいたいけど、ここにいるだけの理由を失ってしまった。ここにいて好意的に受け入れられるだけの価値を失ってしまった。このままではぼくにとって初めての理解者までも失ってしまう。どうしたら良いんだろう。あのひとのお手伝いをすれば良いのかな、何か喜ぶことをたくさんすれば。……だめだ、あのひとはキレイであることに喜んでぼくを引き取ってくれたんだ。そうでないぼくが他に喜ばせることなんてできっこない。どうしたら、どうしたら。


「キレイだった(・・・)、今や霞んで醜いアナタ。またキレイな自分に戻りたくはない?」


 まるでぼくの心を見透かしたかのような句は、混乱していた頭にもすっと染みこんでいった。考えるより先に口が動いた。


「戻りたいよ、こんな色はいやだよ! キレイになりたいよ……!」
「……その言葉に嘘偽りはないと誓えるかしら?」
「本気だよ、誓えるよ。元通りになる方法があるんならぼくはそれを使いたい!」
「そう、良いわ。じゃあアナタの望み通り、キレイなアナタに戻してあげる」


 あのひとは小さく声を立てて笑って、部屋の右手に据えられた真っ白な扉の前に立った。そこらの扉とは違う、分厚くて頑丈そうな扉だった。あのひとが横に付けられた真っ白な装置にいくつかの数字を入れると、鍵がはずれて音も無く扉が開いた。
 一歩ふみ入ったぼくは思わず息をのんでぽかんとしてしまった。中に置かれている実験用具のようなものもライトが点滅する大きな機械も、天井に張り巡らされたたくさんのパイプもやっぱり真っ白だったけど、ガラスケースやプールや籠に入っている子たちが鮮やかな色をしていたからだ。真っ白で埋め尽くされた背景の中、彼らの極彩色は目に痛いほど映えた。


「どの子もキレイでしょ? この子たちもキレイじゃなくなってしまったのだけれど、私の手で元の状態にまで戻れたの。これで大丈夫だって安心できたかしら?」


 こくんとうなづくと、あのひとは真ん中にある広い真っ白なテーブルにぼくをそっと寝かせた。真っ白な毛布をぼくにかけ、真っ白なその手でぼくのまぶたをすっと下ろさせる。


「さあさ、ゆっくり休みなさい。次に目醒めた時のアナタは望みのままに、それはそれはキレイになっているわ」


 呪文のような言葉のせいか、あのひとの声の独特な響きのせいか、上から真っ白な照明を当てられて眩しいというのにどんどん眠たくなってきた。


(よかった、ぼくはキレイなものとして、まだここにいられるんだ。うれしいな、しあわせだな――)


 それを最後に、ぼくの意識は真っ白な世界からすとんと常闇の世界に落ちた。


+ + + + + + + + + +


 キレイになり、老いてキレイでなくなり、キレイになり、老いてキレイでなくなり、キレイになり、病でキレイでなくなり、またキレイになり。
 数えきれない程の回数を繰り返すことで、僕はここに連れて来られた時のままの色をそのまま保ち続けることができ、真っ白な部屋で暮らし続けることができている。
 共に生活する子は目まぐるしく入れ替わり、今では三代目、四代目に差し掛かっている。けれども僕は皆と話をすることはない。声を出そうにも呼吸をするだけで肺を刻まれるような鋭い痛みが走るため、話ができないのだ。
 ここを訪れる人たちはどんな者でも、リピーターであっても僕を珍しくてキレイだと褒めそやす。けれども僕は彼らに笑顔を向けることはない。表情を作ろうにも引きつった全身の筋肉が鈍い痛みを訴えるため、笑顔が向けられないのだ。

 僕はキレイで居続けるだけではなく、いつの間にか長寿まで手に入れたようだ。普通であればとっくに天命でお呼ばれをいただいている年月を経たが、まだまだ僕の心臓は力強く血液を送り出している。
 その代償なのか何なのか、身体が言うことをきかなくなって久しい。鳩尾のあたりからぼろぼろと頽れるような倦怠感と、あちこちから上がる激痛と、日夜を問わず共存をせざるを得ない。

 ぼんやりと視線を投げ打った先、巨大な窓ガラスの向こうには、優美で真っ白な虫籠が廊下の壁にかけられている。
 やや大きめな籠の中で舞い飛ぶは蝶々たち。大半は「普通」の蝶々、一匹だけ周りと「違う」、真っ青な蝶々が入れられている。快晴の色をした蝶々は他のものよりもずっと美しく珍しくて、キレイだ。
 きっと、否、絶対、あの蝶々は僕と同じ。僕のように痛みを負いながらキレイな生を送っている。あの蝶々だけではない、キレイさを取り戻すあの部屋で見かけた彩りの強い子たちも。

 他の子たちはどうだか知らないが、それでも僕は嬉しく幸せに感じていることは確かだ。
 自分の望み、我が儘の通りに、キレイでなくなってもその都度キレイな状態に戻してもらい、結果キレイでいられるのだから。
 もしも檻の外にもっと大きな幸せがあるとしても、僕は檻の中の小さな幸せを壊してまでそれを手に入れたいとは、やはり思わない。これからもこの思いは変わらないだろう。痛みに全てを委ねて潰えるその日まで。

 ただひとつ、変わってしまったことを挙げるとするならば。


「……こんにちは、良い子にしてたかしら? ふふ、アナタは本当に、いつ見てもキレイね!」


 ああ、最初の最初に聴いた時はあんなにもふんわりと軽やかで甘い、素敵な響きだった「この言葉(キレイ)」が。
 今となってはこんなにも――






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