【 Intervallo  VIII → IX 】


 第七幕につきまして、ワタシが知っているのはここまでです。
 こうして彼女は客観視してきた少女を己の姿であると直感で気付き、現実のものと認識できたのですね。
 何も分からない状態で手さぐりのまま進んでは、さぞや苦難の道が待ち受けていたはず。しかし不明瞭な点を明瞭にできたのならば自ずと糸口も見えてくる。アリスは行き着いた不思議の国で概念を覆され己に迷いますが、彼女は行き着いた自分の世界で己に迷うことはないでしょう。
 特に死した先で、生きていた在りし日の様相などという大事も大事なことを取り戻せたのですからね。めでたしめでたしです。


 ……え? どこがめでたしなんだ、と?
 分からないことを素直に分からないと口にでき、それにより分からないことを解決できているうちが花というもの。人の浅ましき見栄は次第に分からないことに蓋をし、ひた隠しにする。それだけならまだしも、分かったようなフリで繕いに必死になり、保身に走り始める。分からないことをそのままにして得られる仮初の知など、無意味にして無価値でしかないというのに。そして終ぞ分からないこと自体が分からなくなってしまう末路を辿るというのに。 
 その点から言述するのなら、彼女は賢かったに違いありません。どのような審判が下り、そしてどのような場所に送られるのかを知る由はございませんが、唯一にして絶対の味方となりうる自分を理解できれば、この先最早怖いものなどありはしないでしょう。
 (てき)を知り、己を知らば、百戦危うからず。裏を返せば、自分の実情を正確に掴んでいなければ危うき可能性は高まるばかりということ。古の兵法は得てして、戦にとどまることなく、世の事柄全般に相通じるものがございますね。


 さて、第七幕を最後までご覧いただき、ありがとうございました。
 次はいよいよ最後の小話となりますね。短いようで長かった今宵の上演もここまでお付き合いくださったのですから、時間に余裕をお持ちの方はどうぞ〆まで見届けていかれてはいかがでしょう。
 それでは幕間でまたお目にかかれることを祈りまして、第八幕を開けさせていただきます。





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