【 Intervallo  VI → VII 】


 第五幕につきまして、ワタシが知っているのはここまでです。
 こうして彼は道理に反してつなげた彼女との線を断ち、今一度、煩わしい世界を捨て去る道を選ぶのでしょう。
 響く足音はさながら、シンデレラに夢の一時を与えつつも無情に別離へと進む秒針の音のよう。足音が止まる時はすなわち、決別の十二時を示す。そして魔法ならぬ、互いの拘束が解ければ、曲げられていた道理は元通りに。彼女はこれを機に新生し、彼はあるべき場所へと戻ってゆく。
 捩れて交差した者の閊えは消滅し、新しい道への扉が開くというわけですね。めでたしめでたしです。


 ……え? どこがめでたしなんだ、と?
 決して好意的ではなかったにしろ、今に至るまで築き上げてきた重みのある関係性。確実に二人を結び繋ぎ合わせていた、その糸を一刀両断する。そうすることのすべてが良いとは言いきれませんが、反対にそうすることのすべてが悪いとも言いきれないのではないでしょうか。ええ、お察しのとおり、彼らの場合は後者に当たると思われます。
 致し方ないことでございましょう。悲しいかな、終わりは何においても避けられぬこと。古きに縋る道も、彼女と彼がこれ以上共存しうる道も無いとあっては、終止符は必要不可欠なものであり忌むべきものではないのですから。


 それにしても、執着に引きずられて捨てようとしても捨てられない、そんな不断に悩まれる方々にとって、彼の未練のなさ、潔さはいっそ清々しくも見えましょう。
 個々に差はあれど、酷すぎる激情の中で一度経験してしまえば、二度目はこうも穏やかな……それどころかほろ酔いに笑むような心持ちでその時を迎えることができるのかもしれません。そうであるならば御託を並べ言い訳に流れるより先に、早々に断ってしまうのが一番の良案ですね。その際、どんなに心身を切り裂かれる苦味を舐め噛みしめることになるとしても。


 さて、第五幕を最後までご覧いただき、ありがとうございました。
 次幕の小話も、これまでとはまた別の世界から掬い上げたもの。お気持ちを新たにご鑑賞いただければ幸いです。
 それでは幕間でまたお目にかかれることを祈りまして、第六幕を開けさせていただきます。





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